小児期のDCDの割合は意外と多い
DCDの診断で用いられるDSM-5(アメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)における、正式な診断名は「DevelopmentalCoordinationDisorder」。発達障害の1つで、日常的な動作に極端なぎこちなさが見られます。人間が何か動作を行う際は、視覚や聴覚からの情報、モノと自分の位置関係など、さまざまな情報を無意識に統合しながらイメージどおりにいくつもの筋肉を動かし、目的を達成します。これを「協調運動」と呼ぶのですが、DCDは協調運動の発達がスムーズにいかないことで生じるといわれています。
例えば、子どもは幼児期から学童期にかけて、箸を使って食べる、ボタンを留める、クレヨンで色を塗る、字を書く、ハサミを使う、ボールを蹴るなど、さまざまな動作ができるようになっていきますが、DCDの子は極端に動作がぎこちなく、時間がかかってしまいます。
こうした様子に当てはまるお子さんが思い浮かぶ学校の先生もいるのではないでしょうか。小児期のDCDの割合は人口の5〜6%といわれており、実は身近な存在です。
──いつ頃から困難さが生じ始めるのでしょうか。
DCDのお子さんの保護者の方に話を聞くと、赤ちゃんの頃から気になる様子が見られたという声も。「嚥下が苦手で、ミルクを飲むとすぐむせた」「自分で姿勢を保つことができず、抱っこすると全体重をかけてくる」「ハイハイがうまくできず、やりたがらなかった」といったお話を聞いています。
ほかの発達障害との併存が多い
DCDの診断ができる医師が少ないというのは大きな課題ですね。子どもは発達過程にあり、時間経過とともに症状が変化しうる点もDCDの診断を難しくしています。例えば、発達障害を併存している場合、ADHDの症状が強く出ていてDCDは診断基準に満たない場合はADHDと診断されますが、ADHDの症状が落ち着いた頃にDCDの支援が必要になるケースもあります。
つまり、診断の時点で不器用さの評価が難しくても、症状や困り事が見られるのであれば診断書に記載しておき、経過観察をして必要なときに支援につなげていかなければなりません。正確に白黒つけることを重視する医師も多いですが、時間軸と症状軸でその子の高次機能全般を診ていくディメンジョナル(次元的)な診断をしていただきたいと思います。いわゆるグレーゾーンの子どもたちのそれぞれの症状を注意深く診ていくことです。
「道具の活用」やその子なりの「マイゴール」の設定を
──DCDのお子さんに対して、どのような支援や配慮が必要でしょうか。
例えば書字が苦手なら、授業が理解できていれば写真に撮ってノートに貼り付ける、提出物にパソコンを使うなど、本人に合った学び方を認めてあげてほしいと思います。定規やはさみ、エプロンなど、道具を使う授業では、苦手なことをカバーしやすい道具や便利グッズを選んであげてください。
また、自分のペースで繰り返し練習すると動作を習得しやすいのかもしれません。ある関西圏にお住まいのDCDの方は、財布から小銭を取り出すことは異常に時間がかかるけれど、小さい頃から日常的に食べているお好み焼きはひっくり返せるそうです。ちなみに私もDCDの傾向があって図画工作が苦手でしたが、ピアノを習っていたため音楽には苦手意識を持たずにすみました。
体育においてはどのような配慮が求められますか。
体育は高度な運動が求められるので、DCDの子にとってはとても苦しい時間です。DCDに限らず、発達障害の方は「体育が一番苦手」という方が多いようですね。ほかの教科と違って、「できる・できない」が可視化されやすく、競争する場面が多いためでしょう。今の学校の体育は、技術や体力の向上が重視され、それが難しい子どもたちがどうしたら健康でいられるか、どうしたら体育に参加できるかという視点が抜け落ちています。
以前、日本DCD学会で、サッカーが苦手なDCDのお子さんを対象にしたデモンストレーションが行われましたが、指導者が実際にお手本を見せながら、「ボールを持って走る」「ボールを足に乗せる」といったことからチャレンジしていました。
そんなふうに、例えば体育の跳び箱も「まずは跳び箱に手をつく」を目標にするなど、実現可能なところから始めて、その子なりの「マイゴール」を設定してあげることが重要だと思います。
DCDのお子さんを持つ保護者の方にアドバイス
DCDと診断されれば、学校や先生に対し、発達障害の1つということで合理的配慮の申請がしやすくなります。しかし、残念ながら日本ではまだまだDCDの認知度が低く、診断できる医師も限られています。
現状としては、東京よりも関西のほうがDCDに精通した先生が多いなど地域差もあるので、まずは地域の保健センターや小児科、小児神経科などで「これはDCDの症状ではないか」と聞いてみて、DCDの診断ができる医師を探すこと。養護教諭やスクールカウンセラー、外部の公認心理師などに相談して探すのも一つの手です。
また、DCDは、LDやADHDとの併存が多く見られるほか、ASDとの併存も確認されています。ほかの発達障害も疑われるならばそちらの診断を受け、学校に合理的配慮の申請をするという方法もあります。
それも難しい場合は、DCDの疑いがあることを説明して「この動作を何度やっても失敗するので、こういう配慮をお願いできますか」と具体的に学校に交渉してみましょう。その際、さまざまな二次障害が起こりうることを伝えることも大切です。担任の先生の反応がよくないのであれば、ほかの先生やスクールカウンセラー、養護教諭などほかの教職員にも相談してみましょう。
保護者の方は、医師に限らず学校関係者やママ友など、さまざまな人にDCDやお子さんの特性について話し、その輪を広げていってほしいです。それが周囲の理解につながり、情報収集もしやすくなっていくと思うのです。
(文:吉田渓、注記のない写真:TATSU/PIXTA)